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地下アイドル姫乃たまの恥ずかしいブログ

1993.2.12下北沢生まれ。地下アイドル姫乃たまの主にアダルトなお仕事日記。普段の活動は「姫乃たまのあしたまにゃーな」http://ameblo.jp/love-himeno/

『劇場版501』(ネタバレどころか、ひどく個人的な話)

渋谷ユーロスペースで『劇場版501』を観て、スクランブル交差点で出演女優の青山真希さんと別れ、帰宅して、パソコンのキーボードを叩いています。青山さんと別れた後、私は気持ちのやり場を見つけることができずにいました。もう、私の周りには誰もいないからです。

 

2015年11月14日、川崎クラブチッタ

ロフト系列による「ロフトフェス’15」に、私はAV監督のバクシーシ山下さん、それから『劇場版501』の監督であるビーバップみのるさんと出演していました。

出演時間ギリギリにふらふらと現れたみのるさんの顔は、完全に鬱状態の人のそれでした。いつも、軽快で人あたりがよく、目だけ鋭く光らせたまま飄々としている方ですが、虚ろな目の下はくぼみ、顔色も悪く、話し始めても、お得意のナンパ演説どころか、ネガティヴな言葉しか出てこない有り体だったのです。

みのる監督がこのような状態になったのは、単純に『劇場版501』の編集が、素材の多さ、関わった人たちの熱意/トラブル/関係の複雑さによって、難航していたためでしょう。さらに前日、仮編集した映像の作り直しを余儀なくされ、作品の答えを見失ってしまった経緯もあります。しかし、私は凡庸な人間なので、舞台上でゆらゆらしているみのるさんを見ながら「うわあ、業が深まっている」と思わずにはいられませんでした。

 

 

話はもっと遡ります。2014年の夏、私は鶯谷のデリヘル「人妻時代」の社長夫妻と蜜月にありました。旦那の村上さんはシャイな方で、妻である夢華さらさんはお喋りな明るい女性です。三人で一緒にいる様子を、周囲からはお姉さん夫妻の家に遊びに来た妹のようだと、よく言われました。まだふたりが結婚していることを公表する前、ふたりのアリバイ作りを兼ねて、私も一緒に旅行へ連れて行ってもらったことがあります。

私はふたりに対して完全に心を許していて、人妻時代の待機所で、電話に出る村上さんと、働きに出るお姉さん達を見ながら、何時間でもすやすやと眠りました。さらさんが働きに出ると、村上さんと何を食べるか相談して、さらさんの帰りを待ち、何度も三人で食事をしました。とてもよく食べる人たちでした。

 

旅行先は江ノ島は、夏で、海が光ってて、車の窓から流れ込む風が気持ちよくて、運転席と助手席でふたりが笑っていました。

 

ある日、私はさらさんから「ビーバップみのる監督のドキュメンタリーに出ることになったの!」と嬉しそうに報告を受けました。もともと、私はみのる監督のドキュメンタリーのファンだったので(もちろん淫語AVも好きです。というか、ドグマ自体大好きです)、もちろん引き止めました。「大変だと思うけどなあ」

しかし、さらさんは村上さんと立ち上げた人妻時代をもっと繁盛させるために、プロダクションに所属して自らAV女優として駆け出したばかりでした。お店のためになるなら、ふたりがもっと幸せに暮らせるなら、どんなチャンスでも掴みたかったと思います。そしてその年の夏は、本当に本当に大変でした。

 

 

さらさんは明るくてまっすぐで、一生懸命な人です。彼女は『劇場版501』の制作に失敗し、それでも作品を成功させようともがくみのる監督に共感し、共感を自分ひとりの中に閉じ込めたまま、撮影のためのイベントに向けて、無謀としか思えない頑張りを続けました。日々何かを頑張っていないと落ち着かない様子で、体重計の数字を追って過度なダイエットを続けるうちに、救急車で搬送されたのです。ほとんど絶食状態で、長距離のジョギングを何日か続けたためでした。目だけが爛々と異様に輝き、絶食とイベントまでのプレッシャーで混乱しているのは誰の目にも明らかでした。

彼女が救急車で搬送された時、そばには村上さんもいました。私は彼女が倒れたことを、村上さんのツイッターで知ったのです。さらさんはドキュメンタリーに出演していることに忠実で、自分を素直にさらけ出そうとする過程で、夫婦間の溝を浮き彫りにさせていました。搬送されるさらさんを、村上さんはじっと見ていました。この時すでに、みんなが満身創痍でした。

 

私は彼女の頑張りに対して、最後までなんでも協力しようと腹をくくっており、件のイベントへの出演と撮影を受けました。イベントは出演者である女優5人が対決するというものです。その中で、女優さん同士が特技を披露して競うステージがあり、私はそこへさらさんに協力する形で出演することになったのです。さらさんは特技でヲタ芸を披露しました。私のライブでヲタ芸を見て感動したという彼女が、ヲタ芸をマスターして、私の歌う前で披露したいと言ってくれたのです。審査員は数十名の汁男優。音響設備は小さなラジカセひとつでした。パンツ一丁で真剣に見つめる男優さんと、小さなラジカセ、うたう私と、渾身のヲタ芸を打つさらさん。

 

 

イベントが終わった後も、私たちが三人で旅行に行くことはありませんでした。夫婦間の溝は埋まらず、お店もなくなりました。海沿いを走った送迎車ももうありません。もちろん、あの待機所も。働いていたお姉さんたちがどこに行ったのか、私は知りません。みんなが、猛スピードで不幸になっていきました。あの日、幽霊のようなみのるさんを見て、つい「業が深まっている」と思ってしまったのはそのせいです。

 

私は鶯谷から自然と足が遠のき、村上さんとも、さらさんとも顔を合わせる機会が減りました。ふたりが離婚してしまったのもあります。それでも、私は日常を生きてきました。それ以外にどうすることもできないからです。あの夏から、もう一度、ふたりがいない夏が来て、私は書籍の出版に向けて無我夢中で編集部にこもりました。日常はそのように続いてきました。

 

 

数日前、「ロフトフェス'15」にブッキングしてくれた社員さんと長電話をしていました。「劇場版501完成して上映してますよ」と、教えてくれたのは社員さんです。そんなことも知らないくらい、私の人間関係はいつの間にか、あの夏とは変わっていました。

社員さんが盛況で立ち見だったというので、上映5日目にユーロスペースに行ったところ、30分前に受付ですでに立ち見のみ。私がチケットを買ったすぐ後には札止めになっていました。大勢の人が見守る中、スクリーンに映像が流れます。あの頃のさらさんと村上さん。はしゃいで、兄弟のように遊んだあの頃のふたり。

一緒にラジオをやっていたゴールドマン監督、いつも会うと気にかけてくれるAV男優の辻丸さん、「AVに出てえらいね」と労ってくれた青山真希さん、若林美保さん。いまはもうない待機所、送迎車。ほかにも映っていないけれど、あの夏を過ごした人達がその場にいたことを、私は思い出していました。いつの間にか、いろんなことが変わっていたようです。

 

ななめ後ろの席に座っている女の子達が笑っていて、さらにその横に振り向いたら青山真希さんがいました。真希姉だけが、私と同じ表情をしていました。祖父が亡くなってすぐ、祖母と顔を合わせた時のことを思い出しました。私と同じ表情。私達にしかわからない、寂しさ。あの夏の、高揚感が非情だったこと。

 

エンドロールには、丁寧に私の名前がクレジットされていました。私はあの夏とともに閉じ込められています。『劇場版501』には、私に限らず、さらさんに限らず、関わった、関わってしまった、関わらないと決めた人達のこうした私情が強烈に絡み合っています。ドキュメンタリーだからです。劇場を出て、目だけ鋭く光らせた軽快なみのるさんに会ったら、この映像が完成してよかったと心から思いました。

 

そして私の周りには、誰もいません。映画はとても面白かったです。念のため。

『潜行 ~地下アイドルの人に言えない生活』

子供の頃に、読み聞かせてもらった童話はなんでしたか? グリム童話ですか? アンデルセン? それともイソップでしょうか。

私は母親が幼少の頃に贈られた(つまり私の手に渡った時点で背表紙などが綻んでいた)イソップ童話にかじりついていました。そのほかにも幼稚園や小児科にある絵本や。

小学校にあがって、文庫で星新一の小説を読むと、大人が読むような本(級数が小さいだけで、どの本もとても難しく見えました)も読めるようになっていることがわかり、日常の多くの時間を読書に充てるようになりました。

それから時々、私はよい読者ではありませんでした。嫌なことがあった時、気を紛らわすために、字を斜め読みすることもあったからです。
そうして本は私が健やかな時以外も、常に私のそばにありました。私に何も求めず、逃げず、いつもそばに。

高校生になってケータイ小説が世間的にも流行すると、これまで当たり前だと思っていた、紙で本を読むことの魅力に気がつきました。紙の手触り、インクの匂い。
本に顔を埋めると、いろんな気持ちになります。過去の、喜びや、辛さや、あの時の、この時の気持ちが混ざって。

もはや私は文章が読みたいのか、紙を触りたいのか、インクの匂いを嗅ぎたいのかわからなくなっていたほどです。

大学生になると、本の内容よりも装丁や紙の質に関心が向くようになりました。紙の手触りや微妙な色の違い。マットな、つやつやな、加工。文字の形や、色や、それらが並んだ時の雰囲気の違いや、しおりの有無。花布の色、表紙の装丁等々。

大学を卒業して、数ヶ月が経ったいま、自分の本が出版されるなんて、まるで夢のようです。

徹夜を重ねた執筆の日々も、優しく熱心な編集さんたちの声も、いまではもう遠いことのようで、出版されるという事実からもすっかり遠のいていましたが、私がぼんやりしている間にも、私の書いた文章はデザインされ、印刷され、全国に流通する準備がなされていたのです。

そして、ふいに編集さんから連絡は届きました。「書籍発売情報、解禁お願いします。」

またたく間に書籍に関する記事がネット上に公開され、イベントの開催も決定しました。あの本が、本当に本屋に並ぶのかあ。

姫乃たま、初の単著出版決定! 「アイドルをよく知らないという方にも読んでいただきたいです」 

書籍の内容は、上記の記事にある通りで、過去に連載してきたものの再構成と、書き下ろしが収録されているのですが、過去の連載に関しては、納得いかないものが多く、ほぼ書き下ろしと言っていいほどリライトしました。連載を読んでくださってる方にも、改めて読み返してもらえますように。

また、寺嶋由芙ちゃんとのメジャーインディー対談、最近では「アキバ系の生き字引」とも呼ばれているらしい(!)FICEさんといちご姫さんとの座談会、さらに嶽本野ばらさんとの対談も収録されています。

同時にグラビアページとして、学生時代から縁があり、成人式にも写真を撮っていただいたカメラマンの平山訓生さん、アイドルとアダルトの世界を綱渡する私を元AV女優でカメラマンの大塚咲さんに撮影していただきました。

件の成人式の写真も収録されています。

そして何より注目していただきたいのが、上下の帯を折り込んだ特別仕様(と、記事の文中にはありますが、実際にそう呼ぶしかないほど稀有な)装丁になっています。

勘のいい方がツイッター上で「この装丁なら中のデザインも凄そう」と書いてくださいましたが、まさにその通りで表紙を手がけてくださった川名潤さんが、中身もすべてディレクションしてくださっています。

散々、推敲して、なお納得いかない(しかしこれ以上、私にはどうにもできない)文章が、川名さんのデザインにおさめられた途端、あるべくしてそこに書かれているようになった、あの時の感動は忘れられません。

ちなみにこの表紙の現物をまだ私は見ていません。製作はひとつずつ手作業で、とても時間がかかるそうなのです。デザインしてくださった川名さんに、作業してくださる印刷所の方に、まず私のわがままを鼻で笑うことなく聞き入れてくれたblueprintの編集さんたちに、それを叶えてくれたサイゾー社に、とてもとても感謝しています。

それを手にした時、私は何を思うのでしょう。きっと、執筆してた時の疲労感に似た高揚感や、いままで読んできた本のこと、図書室の先生、読んでいた場所や、その時々の私のこと、すべてが走馬灯のように体を駆け巡るでしょう。きっとそのはずです。


■『潜行 ~地下アイドルの人に言えない生活』
著者:姫乃たま
版元:サイゾー
発売日:9月22日
価格:1400円(税抜)

この本は、居場所を見つけるための、探すための本です。アイドルに関心のある人にはもちろん、生きづらい人にも届くように願っています。

そして読み終わった本を誰かが古本屋やフリーマーケットに売っぱらって、私がアイドルじゃなくなった頃に、誰だか知らない人に読まれたりしますように。その時、地下アイドルシーンはどうなっているのでしょう。

でも、もちろん最初から古本屋で探さないでね!

そのためにサイン会付きのイベントをやります。ぜひ手渡しさせてください。

姫乃たま『潜行 ~地下アイドルの人に言えない生活』出版記念
トーク&ライブショー 握手会&サイン会あり!


2015年9月27日(日曜日)
会場/2.5D(渋谷PARCO part1 6F)
〒150-8377 東京都渋谷区宇田川町15-1パルコパート1
open/start 18:00/18:30
ticket:¥1500+1D
【30席限定】2000+1D(先着で会場前方の座席をお取りできます。)
出演:姫乃たま and more!
※チケットは9月7日正午より、下記2.5dのウェブサイト上のPeatixで受付開始です。

地下アイドル兼ライターとして活躍する姫乃たまが、9月22日に初の単著『潜行 ~地下アイドルの人に言えない生活』を刊行。現役の地下アイドルとして約7年のキャリアを持つ姫乃たまが、シーンにおける“ブラックな実態”から“愛おしい魅力”までを書き綴った一冊に仕上がっている。
  刊行を記念して、ゲストを招いたトークとライブ、そした終演後に初となるサイン会も行われる。